地域のコミュニティセンター
無印良品の店舗は、商品の販売だけではなく、地域のコミュニティセンターとして、自治体や地元企業、非営利団体等と協力しながら、その地域の課題解決や活性化へ向けた活動に取り組んでいます。地域によって生活様式や、抱える社会課題は異なり、地域の皆様と課題や価値観を共有し、試行錯誤を重ねながら地域へのより良いインパクトの創出を目指しています。2024年8月期には、これらの土着化活動のうち2つの取り組み事例を取り上げ、社会へどのようなインパクトを生み出しているかを可視化するために、社会的投資収益率(Social Return on Investment:SROI)の手法を用いて、社会インパクト評価を実施しました※1。2つの活動について評価した結果、それぞれの地域において経済便益だけではなく、社会的な便益が十分にあることから、活動の意義があることを確認できました※2。
SROIは、社会的事業や活動への投資効果を評価する手法の一つで、生み出された社会へのインパクト(便益)を投入金額で割ることで求められます。一般的に企業の経済活動の評価には、利益額を投資額で割ることで求める投資収益率(Return on Investment :ROI)が用いられますが、SROIでは経済面だけではなく、社会や環境への影響を貨幣価値換算し、経済的な利益額と合算することで、社会インパクト(便益)を測ります。なお、SROI=1.0以上で、投資効果があると評価されます。
社会的投資収益率(SROI)=
社会へのインパクト(便益)÷ 投資費用
本評価の実施にあたり、東京大学大学院経済学研究科 教授 松島斉氏、東北大学大学院経済学研究科 講師 矢ヶ崎将之氏にご意見をいただきました。なお、松島氏、矢ケ崎氏は、「社会的共通資本寄付講座※3」のメンバーでもあります。また、SROI評価結果については、北九州市立大学環境技術研究所 教授 松本亨氏にレビューをしていただきました。
※1 短期間のアンケート結果に基づき、試験的に評価した結果です。
※2 貨幣価値換算による評価手法には限界があり、すべての社会便益を十分に評価しきれていない可能性があります。
※3 「社会的共通資本寄付講座」は2022年より、良品計画の寄付により東京大学大学院経済学研究科内に設置されました。(詳細)

「無印良品 直江津」では、2020年8月から中山間地などへの移動販売バスを運行しています。店舗までは足を運びづらい地域の方やご高齢者など、お一人での買い物が困難な方々のもとに出向き、会話し、皆様が安心して暮らせるようお菓子やレトルト食品、化粧品などの生活にまつわる約300種類の品々をお届けしています。移動販売先は、自治体などと相談して決定し、「無印良品 直江津」が所在する上越市を中心に、合計18拠点に展開しています(2024年8月末時点)。
直江津での移動販売バスの運行開始から4年目となる2024年8月期における1年間の活動を評価対象としました。運行費用約1,100万円(投資費用)に対し、活動の成果の合計は約2,700万円(便益)であり、SROIは2.5でした。アンケート結果から、お客さまは無印良品の店舗や市街地に移動するための時間・交通費がかからずに近所でお買い物ができること、またお買い物をする場所が少ない地域においてお買い物の楽しみが増えることに喜びを感じる方が多く、この取り組みの利用者のメリットを金額にすると1人当たり年間約1,700円となりました。また、経済的な便益では、移動販売バスをきっかけに、自治体施設などで常設の委託販売先が増えたことで販売利益が前期よりも増加しました。お客さまからは、商品の品揃え拡充などのご要望をいただいており、今後も改善を進めていきます。

※4 移動販売バスの運行がきっかけで、2023年8月期と比較して増大した委託販売先の利益
※5 移動販売バスの運行時に排気ガスが排出されるため、環境への負の影響として便益から差し引いています。
※6 移動販売バスの利用者へのアンケート(2024年9~10月実施、回答者数207名)での回答から得られた、移動販売バスを利用することのメリットおよびそれに対する支払い意思額を参考にしています。
ここに記載している利用メリットは、アンケート回答においてご意見の多かった回答(選択式および自由記述)の一部です。
2023年11月に岐阜県にオープンした「無印良品 ヨシヅヤ可児」では、包括連携協定を締結した可児市と子育てや次世代育成支援、市の自然・歴史・文化資源の継承や魅力づくりに寄与するような店舗を目指しています。その取り組みの一環で、店舗内に可児市立図書館の分館「カニミライブ図書館」を併設し、市民の皆様のくらしを支えるさまざまな取り組みを行っています。今回、以下の取り組みを対象に評価を実施しました※7。

市民の方々により気軽に本に触れ、興味を持つきっかけになって欲しいという思いから、店舗内に可児市立図書館の分館「カニミライブ図書館」を併設するアイデアが生まれました。市民の皆様のご意見をもとに、こども向けや親子で楽しめる本を重点的に選書したほか、親子で会話しながら本を楽しめる空間にしました。また、普段は手に取らないような本と出会えるように、店舗と一体化した空間デザインと書架の配置、並べ方等の工夫をしています。良品計画の空間設計部が設計し、可児市が年中無休で運営を行っています。一方で、30年以上にわたり市民に親しまれてきた可児市の移動式図書館「ひまわり号」は、老朽化のため2023年9月にその役目を終えました。現在、「ひまわり号」は地域活性化のシンボルとして新たな役割を担い、ヨシヅヤ可児のセンターコートに展示されています。土日のオープン日には、車内の本を利用することができます。
店舗内のイベントスペース「Open MUJI」では、地域活性化を目的としたさまざまなイベントが開催されています。参加者が新しい知識や発想を得たり、人と人の出会いにより活動の広がりが生まれることを目指しています。現在、可児市、市民団体や大学などにより、健康や子育てなど暮らしに役立つ情報発信や、音楽や工芸などの体験ワークショップが実施されています。
店舗内のヘルスチェックコーナーでは、血圧やストレスなどを計測する約10種類のヘルスチェック機器を設置しており、どなたでも無料でご利用いただけます。
カニミライブ図書館のオープンから1年間の活動を対象に評価しました。カニミライブの取り組みへの投資費用約1.4億円(投資費用)に対し、活動の成果の合計は約2億円(便益)であり、SROIは1.4でした。アンケートの結果、87%のお客さまは無印良品でのお買い物を目的に来店されていますが、60%以上の回答者がお立ち寄りの際には本を借りたり、 本を手に取っています。また、38%の方がカニミライブ図書館ができたことで本を読む機会、触れる機会が増えたと回答しており、その理由として「買い物のついでに立ち寄りやすいから」が46%と最も多く、次いで「今まで出会ったことのない本があるから」が40%でした。「Open MUJI」などでのイベント参加者(アンケート回答者の13%)のうち55%の方が「こどもと一緒に楽しめた」と回答しました。また、良品計画と可児市の協力によりカニミライブ図書館を設置したことで、一般的な図書館の建設費用よりもコストが抑えられているほか、入居しているヨシヅヤ可児の売上増加につながっています。今後の改善点として、本の種類を増やしてほしい、イベントを増やしてほしいなどのご意見をいただいています。

※7 評価対象は、カニミライブ図書館および無印良品のイベントなどの土着化活動のみであり、無印良品の商品販売や一般社団法人カニミライブの地域商社活動などは評価の対象外です。
※8 投資費用のうち、設備建設費・機材費は減価償却年数(それぞれ50年、8年)で除した金額を1年間分の費用として計上しています。
※9 ヘルスチェック機器は、2024年1月から利用開始したため、同年1~8月の実績をもとに12ヵ月分を推計しました。
※10 一般的な図書館の建設費用と比較して圧縮された金額、ヨシヅヤ可児の営業利益増加額、および新聞・広報誌に掲載されたことによる宣伝効果の合計。
※11 カニミライブの利用者へのアンケート(2024年11月実施)において、「カニミライブ図書館」/「無印良品 ヨシヅヤ可児」へ2回以上訪問したことがある方の回答を参考にしています。
※12 上記アンケートにおいて「カニミライブ図書館」/「無印良品 ヨシヅヤ可児」へ2回以上訪問したことがあり、さらに「Open MUJI」に参加したことがある方の回答を参考にしています。
※13 上記アンケート結果から得られた、「カニミライブ図書館」を利用することのメリットおよびそれに対する支払い意思額を参考にしています。ここに記載している利用メリットは、アンケート回答においてご意見の多かった回答(選択式および自由記述)の一部です。