増床スペースから紐解く、長く使える空間と資源循環の考え方

良品計画のものづくりは、「素材の選択」「工程の点検」「包装の簡略化」という3つの視点を基本としています。生活の基本となる本当に必要なものを、本当に必要なかたちでつくる。その考え方は、商品だけでなく、建築や空間の設計にも受け継がれています。
良品計画の建築・空間設計が大切にしているのは、地球環境や地域資源の循環を考慮した素材選びと、利用する人々が愛着を持ち続けられる空間をつくることです。オフィスや公共空間、宿泊施設などの設計から、そこで使う家具や什器の開発までを一体で捉え、長く使える空間をともに考えています。
この記事では、2026年4月に増床した良品計画本社のオフィス空間を事例に、働く人の声をどのように設計へ反映し、既存の家具や地域の資源をどのように生かしたのか、その背景と工夫を紹介します。

良品計画は2024年2月、東京都文京区の飯田橋に本社を移転しました。新しい本社では、「人が主役の働きやすい、居心地のよいオフィス」を目指し、社員が自ら働き方を考え、環境を改善していく「完成させないオフィス」という考え方を掲げました。
移転後も、社員から寄せられた意見や日々の気づきをもとに、働く環境の検証を続けてきました。その中で見えてきたのが、集中する場、対話する場、休む場の境界が曖昧になり、オフィス全体が執務席のように使われているという課題です。オンライン会議の増加などにより、音や視線によるストレスが生じる他、社員同士の対話にも影響が表れていました。
そこで、社員へのヒアリングや行動観察を重ね、増床スペースでは「はたらく」「はなす」「やすむ」という行動に合わせて空間を構成しました。動線の周辺には、自然に会話が生まれるカウンターや、周囲を程よく囲んだテーブル席を、試作と検証を重ねながら配置しました。目指したのは、顔を合わせ、同じ場の空気や温度感を共有しながら対話を重ねる「集まることで前に進める場所」です。

増床スペースの設計では、家具や設備を一律に新しくするのではなく、既存のものを「そのまま使えるもの」「加工すれば使えるもの」「新たにつくる必要があるもの」の3つに分け、状態や用途に応じて判断しました。
ロッカーなどはそのまま継続使用し、ワーキングチェアやソファは生地を張り替えることで再利用しました。新たに導入する家具は、部品ごとに交換しながら長く使い続けられるよう、メンテナンスのしやすさを重視して設計しました。例えば角パイプデスク・テーブルは、シンプルな什器構造で天板を交換したり、連結することで環境の変化に柔軟に対応できます。
こうした考え方から生まれたサービスの一つが、2026年3月に受注を開始した法人向けの「生地張替サービス」です。無印良品の商品に限らず、他社製のチェアやソファにも対応し、張地を更新することで家具をより長く使い続けられるようにします。廃棄を抑えるだけでなく、色や素材を変えることで、使い心地や空間の印象も刷新できます。
※関連情報:
【法人限定】愛着あるオフィス家具を長く使い続けるための「生地張替サービス」を開始 | ニュース | 株式会社良品計画
新たに取り入れる素材についても、見た目や機能だけでなく、その背景と将来の循環まで考えて選択しています。
増床スペースには、国産木材を使った家具やフローリング、木製OAフロア※1、山にある未利用材を生かした「山の木っ端」シリーズ、再生比率72%のタイルカーペット、ビニールを使わない植物由来のリネン壁紙※5などを取り入れました。フローリングには、木の節や色の違いを理由に従来は使われにくかった材も活用しています。見た目だけで選別せず、安全性や機能に問題がなければ、その個性を生かして使い切ります。
国産材や未利用材の活用が広がることは、森林資源の循環利用や地域林業の活性化にもつながります。良品計画は2023年5月、農林水産省と「木材利用拡大に関する建築物木材利用促進協定」を締結し、5年間で合計10,000㎥を目安に木材の活用を進めています。増床スペースは、国産材を実際に働く環境で使うことで、その可能性を伝える場の一つでもあります。
※1 OAフロア:オフィスの床下に配線用の空間を設ける二重床。増床スペースでは、主要部に国産材を用いた木製パネルを採用しています。フローリング、木製OAフロア、タイルカーペット、リネン壁紙については、法人向け空間商材「内装材」をご覧ください。
増床スペースは社員の働く場所であると同時に、良品計画が開発した家具や内装材を、実際のオフィス環境で体験できる「商品体験型ライブオフィス」でもあります。

完成した空間を展示するだけでは、家具の使い心地や耐久性、人の動き、会話の生まれ方までは十分に分かりません。社員が日常的に使うことで得られる気づきを検証し、家具や素材、空間設計の改善につなげていきます。さらに、オフィスの移転や増床、改修を検討する法人のお客さまにも体験していただき、それぞれの課題に応じた働く環境をともにつくることを目指しています。
問い合わせ先:https://www.muji.com/jp/space-design/contact/
今後は、増床スペースで使用した木材の量をもとに、お取引先と連携しながら炭素固定量やカーボンフットプリント※2の算出も検討していきます。また、一部のフローリングでは、LCA(ライフサイクルアセスメント)※3の考え方に基づいて製品の環境情報を定量的に示すEPD(環境製品宣言 )※4の取得も進めています。
長く使える商品をつくること。今あるものを生かすこと。地域の資源を使うこと。そして、使い手とともに空間を改善し続けること。2026年4月に竣工した増床スペースには、良品計画が空間づくりにおいて大切にしている考え方が、さまざまな形で取り入れられています。
この場所を社員が実際に使い、そこで得られた気づきを商品やサービスの改善につなげるとともに、法人のお客さまにも体験していただく。そうした実践と対話を重ねながら、それぞれの場所や使い手に寄り添い、長く使い続けられる空間づくりを広げていきます。
※2 カーボンフットプリント:原材料の調達から製造、輸送、使用、廃棄・リサイクルまで、商品やサービスのライフサイクル全体で排出される温室効果ガスをCO2換算で示したもの。
※3 LCA(ライフサイクルアセスメント):商品やサービスについて、原材料の調達から製造、輸送、使用、廃棄・リサイクルまでの環境負荷を評価する手法。
※4 EPD(環境製品宣言):LCA※3に基づいて算定した製品の環境情報を、国際規格に沿って第三者が検証し、定量的に開示する仕組み。