第四回:これからの社会はどうあるべきか
ゲスト:慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 教授 蟹江 憲史氏
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任教授 国谷 裕子氏
良品計画は、2018年より慶應義塾大学SFC研究所xSDG・ラボと「感じ良い社会の実現に向けたSDGsの戦略的実現モデルの創出」と題した共同研究に取り組んでいます。このプロジェクトは、生活者や社会の「役に立つ」ことを商品開発や活動の主眼としている無印良品が、今できている/できていないことを、SDGsの17の目標をものさしとして整理し、体系化することを目的にはじまりました。
日本におけるSDGs研究の第一人者で地球環境ガバナンスの専門家である蟹江憲史さん、SDGsの取材・啓発活動を続けられている国谷裕子さんと、良品計画の金井政明が、「これからの社会はどうあるべきか」をテーマに語り合いました。
小売業は地域のプラットフォーム
- 金井
- 無印良品は、創業者である堤清二さんの消費主義へのアンチテーゼ、反体制主義から生まれたブランドです。当時のアドバイザリーボードメンバーである田中一光さんは、「最良の生活者を探求しましょう」と言いながら、余計なコマーシャリズムをとっていきました。素材・生産工程・包材を見直し、生活者の視点で徹底的に無駄をそぎ落としたのです。この時点ですでに大変エコロジーな生活を目指していましたが、先人たちはエコロジーやCSRといった言葉は発してきませんでした。現在私たちは、「役に立つ」という大戦略を持っています。日々のくらしや社会で感じる違和感を解決していくために、今では里山の保全や廃校利用、団地の再生、公共交通を目指す自動運転バス「GACHA」へのデザイン提供などいろいろな活動をしています。このような活動が多岐にわたってきたため、一度きちんと整理し、SDGsに関してもできていることとできていないことを明らかにしたいと思い、蟹江さんに相談しました。
- 蟹江さん
- イギリスで行われたSustainability Summitで、良品計画との共同研究の話をしたところ、「無印良品はすでにサステナブルなことをやってるよね」と言う人が多かったです。でも、SDGsの17の目標を見ていくと、まだ取り組める余地が結構たくさんあり、例えばプラスチック問題もこれから取り組んでいくべきところだと思います。
- 国谷さん
- 無印良品は、自分たちはどのように振る舞えば社会にとってよいのかということをまず考えてから、そこで何をすべきか、どういう商品を出せばいいのかということを、創業のときから大切にしている、理念先行の稀有な存在だなという印象を受けました。「感じ良い『くらし』」だけではなく「感じ良い『社会』の実現」をモットーに掲げるところはSDGsの理念と共通のものを感じます。また、最近は地域課題の解決や格差の是正まで考えているのですね。店舗で、地域固有のものを2~3割販売していきたいとか。
- 金井
- そうです。その地域の野菜や魚などを店舗で売れればいいですよね。そういう活動を通じて、人と人、人と社会のつながりを再構築できたらいいなと考えています。みんなが思想を共有しつながっていて、地域の課題に対して店舗が主体的に取り組んでいくようにならないと、本当の意味で店舗が地域の役に立っていると言えないのではないかと思います。
- 蟹江さん
- 理論的にはできると思いますが、実際にやっているというところはほとんどないですよね。
- 国谷さん
- 均質化されたマニュアルはなく、商品や店舗が地域に入って溶け込むことで、地域全体が活性化するという発想を持って商売をする。これもとてもSDGs的だと思います。
読ませていただいたインタビュ―記事に「小売業は地域のプラットフォームだ」とありました。そのプラットフォームを使って格差是正や地域の活性化をやろうとしている、そこが本当に上手くいったら面白いと思います。 - 蟹江さん
- SDGs的だとは思いますが、無印良品に買いに来る人たちは、同じ思想で買いに来る人とは限らないと思います。例えば他のところよりも安くていいものがあるから買いに来る。でももっといいものが他で見つかればそちらで買う。そこのギャップをどうやって埋めるのかを知りたいです。その裏にある思想まで見て買いに来る人は、全体の半分ぐらいでしょうか。
- 金井
- 半分もいません。
ただ、世代がだんだん変わっていく中で、アメリカでも欧州でもアジアでも若い世代で無印良品の考え方に共感をする方が増えています。将来に向けてこれはすごく有利です。また、邪魔をしないデザイン、きちんとデザインはしながら、それが見えてこないくらいのものが、手に取りやすい値段だったら、良いと思ってくれる人は多いと思います。私たちが努力を続けてそういう商品を販売していると、その裏にある思想を見ない人も買いに来ます。そういう方にもまずは手に取っていただいて、そのうち徐々に分かってもらえたらよいのでは、と考えています。
それを分かってもらうためにも、店舗と地域とのつながり方がすごく大事になります。例えば、ある店舗では、朝、近所の人が集まってラジオ体操をみんなでやるようなコミュニティの場となっていたり。あるいは、団地の中に小さい店を出しましたが、その店の2畳くらいのスペースにミシンや共有で使ってもらえるものを置いたり、お菓子を置いたりすると、近所の住民がみんな店長と顔見知りになります。そうすると、「収納に困っているんだけど」という相談をいただくようになります。こういうつながりから、何ができるかを考える店長、スタッフがどんどん増えていけば、より多くの皆さんに来ていただける店舗になるのではないでしょうか。
※役職等は対談当時のものです